いとう治療院ブログ

腱・靱帯 / 肝臓 【肝実処置】

2016/5/1

  • 一般鍼灸
  • 鍼灸と適応疾患
  • 長野式鍼灸治療

筋・腱などの軟部組織 / 肝臓 の鍼灸治療

◆ 長野式鍼灸治療 ~ 肝実処置 ~

※専門的な内容(鍼灸師向け)のブログです。

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(注)はりきゅういとう治療院の独自の解釈が含まれます。

正しい長野式鍼灸治療を学ばれたい方は各研究会の基礎コースを受講してください。

【症状】

  1. 筋肉(特に腱や靱帯などの密性結合組織)の症状。自覚症状は「張り」「攣る」、他覚的には「緊張」や「筋の短縮」。
  2. 肝臓における諸症状。肝実質の疾患(肝炎等にも有効)およびその周辺症状。AST,ALT値が高いことが多い。

上記の二つが中心的な症状の位置づけであるが、

その他に、「放射線治療後の諸問題」、「抗がん剤投与における不快症状」、「アレルギー治療の基礎処置として」などが挙げられる。

【所見】

  • 脉状:弦脈(浮中沈 位に渡り尖った大きな脉状)・大きく、硬い・ザラザラした感触のあることもある
  • 腹証:右の季肋部(期門あたり)に実性の反応(圧痛・緊張・張り・硬化)、「左天枢」の実の反応、
  • その他:「右C3夾脊穴」の実性の反応・右肝経火穴「行間」の圧痛

【処置】 右季肋部の流通を促進する処置

  1. 肝実5点処置:復溜・漏谷・少海・ゲキ門・曲池(尺沢) 全て右側に刺鍼(補法)
  2. 瘀血処置:中封:尺沢
  3. 肝門脈鬱血処置:左会陽、大腸兪
  4. 脂肪肝に対する処置:右天枢、右章門
  5. その他の経穴の運用:膈兪、肝兪、右C3(C4)夾脊穴、曲泉、行間、太衝、築賓など

【処置のコツ・注意点】

  • 上記処置1から5は全て行えばよい訳ではなく、所見に応じて適宜選択して使用すると良い。全体として「肝実処置」を構成しているが、ターゲットが少々異なるので所見はとても大切である。
  • 処置1(肝実5点処置)について。「右季肋部の張り」および「弦脈」の消滞を目安に手技を行うと良い。各経穴は「復溜」(腎経)、「漏谷」(脾経)、「少海」(心経)、「ゲキ門」(心包経)、「曲池(尺沢)」(肺経)という様に、肝経以外の陰経での構成となっている。つまり、これらの経穴の補法は間接的に肝経を抑え込む手段である。
  • 処置2(瘀血処置)。別の項で改めて述べるべき「最重要」処置の一つ。腹部の瘀血を改善させる(門脈の鬱血解除)は肝実質の問題の解消にも大きな位置を占める為、肝実処置の一員となっている。
  • 処置3(肝門脈鬱血処置)。瘀血処置と概念は似ているが、門脈の鬱血に特化した処置である。「左天枢」がターゲット。「左会陽」にて門脈の終末部である痔静脈の循環改善を目的とする。肝実5点処置は「数脈」時の処置であるのに対して、肝門脈鬱血処置は「遅脉」時の肝実処置として知られる。
  • 「左天枢」の辺りは、門脈系の一部である下腸間膜静脈(脾静脈と合わさり肝臓へ向かう)の反応(鬱血による内臓体壁反射?)がよくあらわれる。
  • 処置4(脂肪肝に対する処置)。脂肪肝治療とあるが、脂肪肝に限定するものではない。むしろ、脉状の遅数を問わずに使用できる処置として認識しておく方が臨床的には有効であると思われる。肝実時は季肋部(期門部)は緊張していることが多いが、右天枢や右章門部は緊張低下(弛緩)していることが多い為、手技は補法でなることが多い。
  • 処置5(その他)。C3(C4)については横隔神経を介した横隔膜に対する処置とである。多くを横隔膜に接している肝臓はその病変の時、横隔膜に与える影響はとても大きい。「膈兪」も同様のイメージをもって差し支えない。「肝兪」「曲泉」「太衝」などは(東洋医学的な)臓である「肝」とその枝葉である足の厥陰肝経を整える為の経穴であるこは自明であるが、注意すべきことは「臓の肝」が「実」が即ち「肝経」の実でないということである。※このこともどこかで頁を割いて紹介したい。

【考察および付帯情報】

  • 所謂「肝実」と「肝虚」という二つの東洋医学的病態は「同居」することが多い。言い換えれば、「肝虚」という「肝のエネルギーが低下」した状態に「肝のエネルギーが亢進」した状態が加わっているというイメージである。「虚(低下)している」のに「実(亢進)している」とは・・・?と疑問を呈されることが多いが、この「虚」と「実」は相反する概念とするよりも別のものとする方が良い。同じスケール上にある概念ではないので、同居していても問題ない。「肝」自身は弱っているにも関わらず、虚勢を張って元気のふりをしているようなものである。
  • 「肝実処置」は施術回数を重ねれは重ねるほど、「肝虚の処置」への意識を持つ必要がある。「実」に病態は「虚」の上に成り立っているのであるから、「虚」を補うことは「本治」として大切である。従って、「肝実処置」は処置全体の中でみると、相対的に「標治的」な立場に位置するものであると言える。
  • 「肝」の概念への補足。いとう治療院では「肝」に限らず、東洋医学的な臓腑には一定の実体があるとみなしている。それは肝臓という解剖学的な臓器を意味するのではなく、より総合的なエネルギーや調整を行うもの、つまりは脊椎周囲に存在する神経節(脊髄神経節や自律神経節)であると考える。「肝」であるならは「肝兪」にて調整できる箇所として考え「T9」レベルの何か(T9レベル脊髄神経節および腹腔神経節<太陽神経叢の一部>)と仮定して施術にあたる。
  • 密性結合組織である靱帯や腱の問題に肝の治療をする意味は、「肝主筋」というあの有名な一節からであるが、なぜ筋組織ではなく密性結合組織なのかは私は実はよく知らない。(筋組織=肌肉は「脾」で考える。)
  • 「アレルギー治療の基礎処置として」は、長野式におけるアレルギー治療の中心臓腑は「脾」「肺」であるが、肝臓の多機能性を考慮すると決して外すことのできないものであると思われる。同様の理由より、「放射線治療後の諸問題」(八白血球数との関係)、「抗がん剤投与における不快症状」(薬剤という異物の代謝・解毒)
  • 「築賓」は腎経の中でも肝との親和性の高い経穴(解毒)として知られる。
  • 「肝」にまつわる話はとても多岐にわたります。今日のところはこの辺りで終えます。随時加筆修正していきます。

 

長野式鍼灸治療を正しく基礎からを学ばれたい方はこちら。

(参考文献)

  • 長野式臨床研究会 基礎コース 資料
  • w-key 長野式研究会 基礎コース資料
  • はりきゅう いとう治療院カルテ(2007~2016)
  • 第6版 分冊 解剖学アトラスⅡ 内臓
  • 長野潔 著 鍼灸臨床 新治療法の探求
  • 長野潔 著 鍼灸臨床わが三十年の軌跡

    長野式鍼灸を中心に病の根本を見つめる全身治療

    はりきゅういとう治療院@大阪