いとう治療院ブログ

「胸郭出口症候群」”首・肩・背中症状”における根本的原因のひとつ

2017/3/3

<この記事を読む所要時間(4分):やや専門的な内容を含みますが「肩こりを治したい」という方、当院の治療スタイルを理解して頂くためにもお読みいただけると幸いです。>

★首/肩/背中症状における根本的原因の一つである「胸郭出口症候群」について

胸郭出口症候群は、肩こりを始めとして、首・肩・背中・腕の不快症状全般の根源となりうる病態の一つです。頑固で慢性的な肩こり・首こりに悩んでいる方のほとんどが、この「胸郭出口症候群」と何らかの形でリンクしていると私は考えます。

胸郭出口症候群はその名が示す通り「胸郭の出口部分」に関する「症状アレコレ」と言う意味です。

★胸郭出口とは

オレンジの丸で囲まれた領域が「胸郭出口部」です。胸郭とは肋骨で囲まれた胸の部分であり、胸郭を筒に見立てた時の「上底」を専門的に「胸郭出口」と呼びます。

胸郭出口部は身体の奥にあります。図では表層の筋肉や組織を削除し、便宜的に理解しやすいようにしてあります。また、日常生活では意識することの少ない場所でもあります。代わりに、この部分での異常は頑固な肩こりや首こり・背中の痛みさらには手の冷えや腕の痺れとして認識されます。

★身体の要衝

胸郭出口部の異常は直接的には認識されず、皆さんが良く知っている症状として認識されます。肩こりのとき、肩を揉んだり押したりしてもすぐに元に戻りませんか?その理由はこの胸郭出口症候群の病態を理解すれば少しわかるかもしれません。つまり、肩こりの大きな原因部分である胸郭出口部を治療せずに、結果である肩のコリだけを触っても無意味であるということです。

胸郭出口は身体の要衝です。図を見てみると、黄色で示した「神経」・赤の「動脈」・青の「静脈」・緑の「リンパ管」があります。

血管である動脈・静脈は首・肩・腕に栄養を送り、老廃物を回収するものです。

神経は頸神経叢・腕神経叢と呼ばれます。神経「叢」とは束という意味で、首を支配する神経の束、腕を支配する神経の束ということになります。実はの頸神経叢・腕神経叢は首・肩・背中のほとんどの部分を支配する「神経の元締め」的な存在です。

このように、解剖学的に見るだけでも、胸郭出口部分は如何に重要な箇所であるかわかるかと思います。

★胸郭出口症候群が関わる症状

肩こり・首こり・頭痛・背中の痛み・腕の痺れや冷え

五十肩・頚肩腕症候群・ばね指・腱鞘炎・テニス肘

息苦しさ・胃腸障害・動悸 など…

★鍼灸治療

胸郭出口部の治療はこの部分に存在している、神経・血管に悪影響を及ぼしている筋肉や筋膜などの軟部組織を正常にすることが大切です。簡単に言うと、胸郭出口部のコリを取るということです。筋肉ならば「斜角筋」呼ばれる筋肉であったり、ツボでいうと「缺盆」という経穴を意識して用います。

「水色で示した筋肉が斜角筋」

少し複雑な話にはなりますが、この「胸郭出口」および「斜角筋」や「缺盆穴」に対して異常を引き起こす、違う部位や原因も存在します。従って、この部分だけを治療すれば頑固な肩こりが治るわけではありません。

理解を深めたい方は、続きの症例をご覧ください。


<症例> 2013/5/12投稿【鍼灸の戦略と症例】胸郭出口症候群を編集(2017/3/3)

腕がしんどい

60代 女性

【主訴】左の腕が外れそうな、何とも説明し難い感じ。

【現病歴】左上肢を挙上するのがやや困難。寝ていると(横になっていると)腕が冷える感じがする。

【随伴症状】背部(肩甲骨)全体の痛み・コリ・違和感。腰痛:臀部に両側的な鈍痛

【所見】

座位:左鎖骨窩が顕著に膨隆している。圧痛はない。骨盤の状況は一見すると整っているように見えるが、側腹部の状態は左右に緊張がアンバランス。→基本処置後に右寛骨が下垂し→最後の確認では左下垂になる。

脈状:脈管の蛇行少々、緊脉・ショク脉

腹証:中注大巨に少々硬結あり

【処置】

脉と腹部に対して基本処置:尺沢・経渠・中封・尺沢の各経穴に刺鍼

骨盤のアンバランスに対して:肝兪に補鍼。殿部筋群へバランス調整の為の刺鍼

胸郭出口症候群対策:左気戸・斜角筋のポイント・頸椎深部へのアプローチを行う。

【鍼灸戦略と考察】

主訴は「胸郭出口症候群」関連と考えて問題ないと思います。触診で認識した左鎖骨窩の膨れた感じは、この部分の軟部組織が硬く・循環不全になっているものとみます。具体的には左の斜角筋群の問題です。モーリーテスト(圧痛の検査)は陰性でしたが、このような病態を長年持ち続けている方は、モーリーテストで陽性がでないことが多いように思います。また、左手が全体に冷えは血流の悪さを示しており単純な肩こりではないと思われるし、形容しがたい症状という表現は「胸郭出口症候群」患者がよく訴える表現でもあります。

これは重要なことですが、首肩の問題であっても、土台である骨盤や腰部へのアプローチは欠かせません。斜角筋は胸郭に付着している為、骨盤と強固に連結・連動している胸郭の歪みをダイレクトに受けます。もちろん、脉状や腹部の所見に照らし合わせた基本的な処置もすべての施術を円滑に行うためにも最初の行うべき大切なものです。

(著者:伊藤圭人)

 自律神経と身体の歪みを整える鍼灸院 / 肩こりの根本治療を考える

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